吹き抜けとは1階の天井部分と2階の床部分を設けずに、複数の連続した階層をつなげた空間のことです。縦に空間が広がることで開放感が得られるため、リビングや玄関に取り入れる方が多く人気の間取りです。
しかし、吹き抜けにすることで電気代が上がるリスクがあります。そのため、吹き抜けを採用するかどうかは、電気代を考慮して判断することが大切です。さっそく、実際にかかる費用を確認してみましょう。
【シミュレーション】吹き抜けの家の電気代
吹き抜けの家では冷暖房が効きにくい傾向にあります。冷暖房の稼働時間が長くなることで電気代が高くなりやすいため、電気代を抑える対策は必要不可欠です。
具体的にはどのくらいの電気代がかかるのか、エアコンの消費電力をもとに、吹き抜けのあるLDK(リビング・ダイニング・キッチン)で1カ月にかかる電気代を算出してみました。
吹き抜けがあるLDKの電気代の計算方法
吹き抜けがあるLDKの電気代を、次の要領で算出します。
- 省エネエアコンとして人気が高い三菱電機「霧ヶ峰FZシリーズ」の消費電力(以下の表を参照)をもとに1時間当たりの消費電力量を算出する
- 消費電力量に電力会社の1時間当たりの電気料金をかける※1時間当たりの電気料金を「公益社団法人全国家庭電気製品公正取引協議会」が新電力料金の目安単価としている31円(税込)で計算(令和4年改定)
参考:公益社団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会
種類 | 畳数の目安(畳) | 型番 | 消費電力(W) |
---|---|---|---|
冷房 | 11〜17 | MSZ-FZ4022S | 940 |
暖房 | 11〜14 | 960 | |
冷房 | 17〜26 | MSZ-FZ6322S | 1,780 |
暖房 | 16〜20 | 1,750 | |
冷房 | 22〜33 | MSZ-FZ8022S | 2,700 |
暖房 | 21〜26 | 2,480 |
引用:三菱電機「三菱ルームエアコン」
夏と冬の電気代(エアコン代)の計算方法
夏に20畳のLDKをエアコンで冷やす場合、20畳用のエアコン1台を使用する計算で算出します。
しかし、冬に20畳のLDKを暖める場合は、暖気が上昇してしまうことを考慮して、2階分である40畳を暖める必要があると考え、20畳用のエアコンの消費電力を2倍にして計算します。
- 1カ月分のエアコン代を算出する計算方法
- 三菱霧ヶ峰FZシリーズの消費電力(w)×1(時間)÷1,000=消費電力量(kWh)。消費電力量(kWh)×31円(新電力料金の目安単価)=1時間分のエアコン代。1時間分のエアコン代×8(時間)=1日分のエアコン代。1日分のエアコン代×30(日)=1カ月分のエアコン代。※1日あたり8時間稼働、1カ月は30日間として計算。※冬の場合はエアコンの消費電力(w)を2倍にして計算。
吹き抜け部分の広さ別!電気代
1カ月にかかる電気代(エアコン代)を、吹き抜け部分の広さ別に解説します。なお、吹き抜け部分のLDKの広さは次のとおりです。
- 最低限の広さ:12畳
- 一般的な広さ:20畳
- 余裕のある広さ:25畳
LDKの広さ | 12畳(円) | 20畳(円) | 25畳(円) |
---|---|---|---|
夏 | 6,993※1 | 1万3,243※2 | 2万88※3 |
冬 | 1万4,284※4 | 2万6,040※5 | 3万6,902※6 |
- 6,993※1
- 940(w)×1(h)÷1,000=0.94(kWh)
0.94(kWh)×31(円)=29.14(円)←1時間当たりの電気代
29.14(円)×8(h)=233.12(円)←1日当たりの電気代
233.12(円)×30(日)=6993.6(円)←1カ月あたりの電気代 - 1万3,243※2
- 1780×1÷1,000=1.78
1.78×31=55.18
55.18×8=441.44
441.44×30=1,3243.2 - 2万88※3
- 2700×1÷1,000=2.7
2.7×31=83.7
83.7×8=669.6
669.6×30=20,088 - 1万4,284※4
- 960×2÷1,000=1.92
1.92×31=59.52
59.52×8=476.16
476.16×30=14,284.8 - 2万6,040※5
- 1,750×2÷1,000=3.5
3.5×31=108.5
108.5×8=868
868×30=26,040 - 3万6,902※6
- 2480×2÷1,000=4.96
4.96×31=153.76
153.76×8=1230.08
1230.08×30=3,6902.4
吹き抜けがある場合の電気代と、一般的な住宅の電気代を比較してみましょう。2022年に総務省が行った家計調査報告によると、二人以上世帯の電気代は、以下のとおりです。
夏(8月) | 冬(1月) |
---|---|
1万1,914 | 1万2,938 |
引用:総務省「家計調査報告」
12畳の場合の冷房代を除いて、吹き抜けがある場合の電気代が一般的な二人以上世帯の電気代を上回っていることがわかります。
表の金額が吹き抜け部分だけのエアコン代であることを考慮すると、吹き抜けがある家の電気代は、高めであるといえます。吹き抜けの家を検討する際は、冷暖房を効率的に使用し、できるだけ電気代を抑えることが大切です。
吹き抜けの家で光熱費を抑える方法
効率的に冷暖房を使用することで、稼働時間を減らし光熱費を削減できます。冷暖房を効率的に使用するには、次の3つの対策があります。
- 床暖房とエアコンを併用する
- シーリングファンやサーキュレーターを活用する
- 断熱性・気密性を高める
特に断熱性、気密性は冷暖房費用の削減に大きく関わります。高断熱、高気密の住宅を建てることで、冷暖房費用を抑えられるため、十分に検討しましょう。
そのほかに電気代を抑える対策としては、次のような方法も有効です。
- 窓にカーテンやブラインド、ロールスクリーンをつけて日差しや外気の侵入を遮る
- 第1種換気を導入する
窓にカーテンやブラインド、ロールスクリーンをつけることで、夏の強い日差しや冬の冷気が侵入するのを遮断できます。また、第1種換気は給気する際、熱交換によって屋外の冷気や熱気が快適な温度に変換されるため、冷暖房効率を妨げません。
熱交換機能のある第1種換気を導入することも電気代の節約につながり、おすすめです。
吹き抜け面積を広げすぎない
吹き抜けの面積が広すぎると、耐震性が下がるというデメリットが生じます。吹き抜け面積は、建物の耐震性や強度についても、十分考慮しながら検討しましょう。
また、日当たりが悪い北側などに吹き抜けがあると、結露によりカビが発生するおそれがあります。吹き抜けを設ける方角にも注意しましょう。
吹き抜けの家の知られざるメリット
通常の家でエアコンを使用するのに比べ、吹き抜けの家は電気代がかかることがわかりました。しかし、吹き抜けは狭小住宅など敷地面積が広く取れない場合でも、天井部分がなくなることで圧迫感や窮屈な印象が軽減されるなどのメリットが多数あります。
- 自然光をたっぷり取り入れられる
- 家族を近くに感じられる
- 風通しがよくなる
- おしゃれでスッキリした印象になる
それぞれ詳しく解説します。
自然光をたっぷり取り入れられる
吹き抜けの家は自然光をたっぷり取り入れられ、部屋の奥まで明るさが広がります。
吹き抜けのある空間では、2階部分の壁に窓を設けるのが一般的です。高い位置から柔らかな光が入るため、室内全体が明るくなります。自然光を十分に取り入れられる日中は、照明をつける必要もないでしょう。
隣家と距離が近いなどの理由で1階部分に窓を設置できない場合でも、吹き抜けがあれば2階部分の窓から、外部の視線を気にすることなく採光が可能です。
家族を近くに感じられる
吹き抜けのある家では階層がつながっているため、家族が別のフロアにいても近くに感じられます。
キッチンやリビングから2階に呼びかけても声が届きやすく、わざわざ階段を上ったり下りたりすることなく会話ができます。
家の中で常に子どもの気配を感じられるため、安心して家事ができる点も吹き抜けのメリットです。吹き抜けがあることで、家族間のコミュニケーションがより取りやすくなるでしょう。
風通しがよくなる
吹き抜け空間では1階と2階のフロアの仕切りがないことで、暖かい空気が上へ昇り、空気の流れが生まれます。
横の流れだけでなく縦に風が通るため、心地よい空間づくりができるほか、効率的な換気も可能です。
天井部分にシーリングファン(天井に設置する扇風機)を設ければ、夏は冷たい空気を、冬は暖かい空気を下階へ送れるため冷暖房の効率もアップします。
おしゃれでスッキリした印象になる
家の中に吹き抜けを設けると、シンプルでありながらおしゃれな空間に仕上がります。
吹き抜けで天井の高さが上がることで窓や照明の種類や配置、梁の見せ方などデザインの選択肢が増え、さまざまな演出ができるようになります。
窓の種類や大きさ、配置を工夫すれば、室内だけでなく外観もおしゃれな印象に仕上がるでしょう。
吹き抜けの家のデメリット
メリットの多い吹き抜けの家ですが、デメリットもあります。吹き抜けを検討する際に事前に知っておきたいデメリットと、その対策方法について詳しく解説します。
吹き抜けの家のデメリットは、次の4つです。
- 冷暖房が効きにくい
- 2階の居住空間や収納スペースが減る
- 掃除に手間がかかる
- 音やにおいが2階に伝わりやすい
それぞれ見ていきましょう。
冷暖房が効きにくい
吹き抜けがあると、空間が大きく縦に広がるため、室内全体が快適な温度に達するまでに時間がかかります。冷暖房を長時間稼働させる必要があるため、光熱費が高くなりがちです。
暖かい空気は上に集まる性質があるため、冬はなかなか1階が暖まらず、夏は2階部分の窓からの日差しで室内が暑くなるというのが、吹き抜けの家のデメリットです。
冷暖房を効きやすくするための対策は次のとおりです。
- 床暖房とエアコンを併用する
- シーリングファンやサーキュレーターを活用する
- 断熱性、気密性を高める
床暖房は電気やガスで床を温め、輻射熱で室内の温度を上げるため、確実に足元から1階部分を暖められます。
上から暖めるエアコンと併用すれば、エアコンだけを使用するよりも効率的に室内を暖められるでしょう。また、天井に取り付けたシーリングファンやサーキュレーターで空気を循環させることで、冷暖房の効率もアップします。
吹き抜けの家は冷暖房が効きにくくなることは想定内ととらえ、できるだけ高気密、高断熱の家を建てるのがおすすめです。
2階の居住空間や収納スペースが減る
吹き抜けがあるぶん、2階の居住空間は減ってしまいます。寝室や子ども部屋など必要な部屋を確保すると、収納スペースが不足することもあり、間取りに工夫が必要です。
2階のスペースが減ってしまう対策方法は、次の2点です。
- スキップフロアや中間階を設ける
- デッドスペースを有効活用する
スキップフロアとは、1つの階層に高低差のある複数のフロアを設けたつくりのことです。1階と2階の間に中間階を設ければ、ミニ書斎や子どもの学習スペースなどが確保できます。
また、デッドスペースになりがちな階段下を有効活用するのもよいでしょう。カウンターを設置して簡易的なワークスペースをつくったり、可動棚を設置して収納スペースにしたり、限られた面積の中で活用できる部分はないか検討するのがおすすめです。
吹き抜けを検討する際は、あらかじめ将来を見据えたうえで、必要な部屋数や収納スペースの容量などを十分に確認しておきましょう。
掃除に手間がかかる
吹き抜けの家は2階部分の窓や壁、照明器具やシーリングファンなど、高所の掃除に脚立を用意するなどの手間がかかります。高所の掃除は手軽に掃除できないうえに、危険も伴うため億劫になりがちです。
吹き抜け部分の掃除対策は、伸縮するモップやワイパーで掃除することです。
柄が長く伸びるタイプのモップやワイパー、スクイジーを使用すれば、脚立を使わずに1階にいながら2階部分の窓や壁、照明器具などの掃除ができます。
1階に立ったまま掃除ができるため、脚立を用意して高所で作業する手間がかかりません。
念入りに掃除したい場合は、ハウスクリーニングに依頼するのもおすすめです。費用はかかりますが、普段なかなか行き届かない部分も手入れできます。
音やにおいが2階に伝わりやすい
吹き抜けの家は1階の天井がないため、1階の音やにおいが2階に伝わりやすくなります。会話やテレビの音、料理のにおいなどが2階に伝わりやすく、過ごしにくさを感じる場合もあるでしょう。
間取りやレイアウトを計画する段階で、対策しておくのがおすすめです。音やにおいが伝わりにくくするための対策は、次の3点です。
- 寝室と吹き抜け部分の距離を離す
- 2階の居室と吹き抜けに面した壁の間に収納スペースを設ける
- キッチンを半個室仕様にする
1階の音が原因で睡眠が妨げられるのを防ぐため、吹き抜け部分と寝室の距離をできるだけ離しましょう。
2階の居室と吹き抜けに面した壁の間に、クローゼットなどの収納スペースを設ければ、収納部分が音を吸収し居室内まで届きにくくなります。そうすることで、2階での学習や仕事への影響を少なくできるでしょう。
また、キッチンを半個室仕様にすれば、料理のにおいや食器洗いの音が広がるのを防げるでしょう。
吹き抜けにするなら、実績豊富な施工会社へ
吹き抜けの家を建てる場合、吹き抜けの実績が豊富な施工会社を選びましょう。吹き抜けのデメリットや注意点を十分把握し、これまでの実績から多くの情報がある施工会社に依頼することで、後悔の少ない家を建てられます。
また、冷暖房効率を上げるためにも、高断熱・高気密住宅に定評のある施工会社を選ぶのがおすすめです。